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パンダの6本目の指の正体は?竹をつかむ手のしくみと研究

竹を両手で持ち、器用に口へ運ぶパンダ。その前足には、6本目の指のように見えるでっぱりがあります。

この記事では、でっぱりの正体と、それを使った竹のつかみ方を紹介します。日本の研究者が見つけた7本目の指や、約600万〜700万年前の化石から分かったことも、研究者の言葉といっしょにたどります。

パンダの指は何本ある?

上野動物園の解説によると、パンダの指の数は、前足も後ろ足も5本ずつです。ほかの多くの哺乳類と変わりません。

ただし前足には、コブのようなでっぱりがあります。パンダは、本来の指とこのでっぱりの間に、竹の葉や茎をはさんでにぎります。親指側の手首の骨が伸びたこのでっぱりが「6本目の指」で、「偽の親指」とも呼ばれます。

小指側の下にも同じようなでっぱりがあり、それもものをつかむのに役立っているという説もあります。あとの章で紹介する「7本目の指」です。

6本目の指の正体は、手首の小さな骨

偽の親指は、親指側の手首にある小さな骨が大きくなったものです(骨の名前は橈側種子骨〔とうそくしゅしこつ〕)。クマやイヌ、ネコなど、食肉目のほかの動物では、この骨は小さなレンズ形のままです。

国立科学博物館によると、ヒグマでは5ミリ程度のこの骨が、パンダでは数センチの長さになります。アメリカのスミソニアン国立動物園の説明では、大きくなったこの骨を、肉厚の皮膚のパッドが覆っています。

パンダの本当の親指は、ほかの指と同じ向きに並んでいます。人の親指のように、ほかの指と向かい合わせにはなりません。

偽の親指があること自体は、100年以上前から知られていました。1939年には、イギリスの博物学者ウッド・ジョーンズが、偽の親指について「本当の親指の場所を奪い、その動きをすべてまねる」と書いています。

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偽の親指は、人の親指とどう違う?

偽の親指は、人の親指のように自分で動かすことはできません。中国の国営通信社・新華社によると、手首や手のひらの骨とひとまとまりになっています。それでも、竹を食べるには十分だといいます。

では、にぎる力はどこから来るのでしょうか。2022年に中国とアメリカの研究チームが発表した論文があります(あとで紹介する、600万〜700万年前の化石を調べた論文です)。この論文によると、力のもとは指を曲げる筋肉です。この強い指の筋肉は、木に登る時に爪を樹皮に食い込ませるためのものでもあり、竹をにぎるのにも役立っています。

偽の親指の役目は、竹を受け止めることです。1996年に解剖学の専門誌に載った論文があります。書いたのは、上野動物園のパンダを解剖した日本の研究者、遠藤秀紀さん(あとの章で紹介します)たちです。5本の指を曲げてものをにぎる時、偽の親指は手のひらの向かい側に立つ支えになる、としています。2022年の化石の論文も、手首の小さなでっぱりでも、曲げた指から竹が滑り落ちるのを防ぐ助けになると見ています。中国科学院昆明動物研究所の吉学平さんも、同じように説明しています。

形にも違いがあります。人の親指には節が2つあり、先の節を曲げてつかみます。今のパンダの偽の親指は、先の近くで手のひら側へ急に曲がった、鉤(かぎ)の形です。1本の骨だけで、つかみばさみのような働きをします。

竹はどうやってつかんで食べている?

上野動物園の解説によると、パンダは後ろ足を前に投げ出し、腰の後ろを地面につけて座ります。そして両方の前足で竹を扱います。座ると前足が自由になる、とスミソニアン国立動物園も説明しています。

アメリカのサンディエゴ動物園は、小さな偽の親指でも、人の親指とほとんど同じくらい上手に竹を扱える、と紹介しています。5本の指と偽の親指で茎をつかみ、固い外皮は歯でむきます。葉はしごいて束ね、丸めて口に入れます。

にぎった手で茎を上下に動かして切る

2022年の化石の論文には、食べる時の手の動きもくわしく書かれています。曲げた前足で茎を口へ引き寄せ、かみながら、にぎった手で茎を上下にぐいっと動かして切ります。手をひねって、口の中で茎を細く裂くこともできます。

冬の茎は、木のように固くなります。それをひねったり引いたりするには、強いにぎりが欠かせません。

日本の研究者が見つけた7本目の指

偽の親指を数えて6本。そう言われてきたパンダの手に、もう1本の指を見つけたのが、日本の研究です。

きっかけは、上野動物園で暮らしたオスの飛飛(フェイフェイ)の解剖でした。解剖したのは、当時国立科学博物館の研究者だった遠藤秀紀さん(のちに東京大学総合研究博物館)です。遠藤さんは、偽の親指が手のひらの骨にしっかりくっついていて、自由に動かせないことに目を留めました。

2010年の東京大学のトークイベントで、遠藤さんはこの時のことを振り返っています。パンダの指は6本という通説に違和感を覚えたのが、発見のきっかけでした。遠藤さんは「比較解剖学の場合は目で見て、指で引っ張ってみて、五感を使うことが大事」と話しています。

CTで見えた、竹をにぎるための空間

遠藤さんたちは、メスの歓歓(ホァンホァン)の手もCTで調べました。そこで見つかったのが、小指側の手首の骨がかかわる7本目の指です(骨の名前は副手根骨〔ふくしゅこんこつ〕。豆状骨と呼ぶ研究もあります)。

国立科学博物館の説明では、手首を深く折ると、偽の親指と副手根骨が並びます。すると、5本の指と偽の親指、副手根骨の7本で、竹をにぎる空間ができます。

この研究は1999年1月28日、イギリスの科学誌ネイチャーに「パンダの偽の親指の役割」という論文で発表されました。CTやMRIで調べ、偽の親指と副手根骨が、二重のはさみのようなしくみをつくると報告しています。

7本目の指が竹をつかむのに使われるかは、見方が分かれる

ただ、7本目の指が竹をつかむのに使われるかどうかは、研究によって分かれています。2022年の化石の論文は、はさむ動きに使われるのは偽の親指だけで、副手根骨は使われていないとしています。遠藤さんたちの説とは違う考え方です。

偽の親指はいつからある?600万〜700万年前の化石からの答え

偽の親指がどう進化してきたのかは、長いあいだ分かりませんでした。化石がほとんど見つかっていなかったからです。2022年の発表まで、いちばん古い偽の親指の化石は、中国・貴州省の洞窟で見つかった約10万〜5万年前のものでした。

2022年6月30日、中国とアメリカの研究チームが新しい化石の研究を発表しました。始熊猫(Ailurarctos)という、大昔のパンダの仲間の偽の親指の化石です。中国・雲南省昭通の水塘坝(すいとうは)で見つかり、約600万〜700万年前のものでした。

研究したのは、アメリカのロサンゼルス郡自然史博物館の王暁鳴(ワン・シャオミン)さんや、中国科学院古脊椎動物与古人類研究所の鄧濤さんたちです。王暁鳴さんは、パンダの食べ物の変わり方をこう表しています。「竹の森の奥で、パンダは肉やベリーを食べる雑食から、亜熱帯の森にたくさんあるが栄養の少ない竹を静かに食べる暮らしに変わった」

同じ場所で見つかった始熊猫の奥歯も、今のパンダと同じ複雑なかむ面を持っていました。固い竹の茎をかみ砕くのに必要な形です。

鄧濤さんは、偽の親指では、クマがふつう食べる種や木の実、ベリー、背の低い草などは集めにくいと話しています。大きくなった偽の親指が食べ物をとるのに役立つ相手は、竹だけだといいます。

昔の偽の親指は、今より長かった

始熊猫の偽の親指は42ミリ。今のパンダ(31〜39ミリ)より長く、今のパンダにある先の鉤は、まだありませんでした。

この論文では、偽の親指は最初にただ長く伸び、あとから先に鉤ができて、先が少し短くなったと考えられています。2段階で進化したというわけです。

偽の親指が長くなくてもよかった理由

竹をつかむのに、長さは要りませんでした。中国新聞網(中国新聞社のニュースサイト)によると、たくさんの竹を一度につかむより、1本をしっかりにぎるほうが大事だからです。鄧濤さんも、すむ所に竹がたくさんあるので、長い親指は要らないと説明しています。

長くなりすぎると、今度は歩くのにじゃまになります。今のパンダは、体重を支えて歩く時、偽の親指も地面につくからです。歩く時には、偽の親指の外側が肉球の中で衝撃を広げる役もしていると、論文は見ています。クマの仲間で、偽の親指を支える大きな肉のパッドがあるのはパンダだけです。

王暁鳴さんは「パンダの偽の親指は、歩くことと『食べる』ことの両方をこなさなければならない。この2つの役目が、この『親指』の大きさの限界になっている」と話しています。発掘の共同リーダーを務めたアメリカのアリゾナ州立大学のデニス・スーさんは、役に立つほど強く、じゃまになるほど大きくはない、と表しています。

レッサーパンダにも偽の親指がある?

ジャイアントパンダはクマの仲間(クマ科)ですが、レッサーパンダは別の仲間(レッサーパンダ科)で、名前ほど近い親戚ではありません。スミソニアン国立動物園によると、レッサーパンダはジャイアントパンダよりアライグマに近いそうです。

それでも、レッサーパンダにも偽の親指があります。ジャイアントパンダとレッサーパンダは、それぞれ別々に同じような形を手に入れました。違う動物どうしが、似た形を別々に身につけることを、収斂(しゅうれん)進化といいます。

2006年のスペインの研究チームの論文によると、レッサーパンダの仲間の化石、シモキオンにも偽の親指がありました。ピューマくらいの大きさの動物で、スペインのマドリード近くの地層から見つかっています。レッサーパンダの側の偽の親指は、もとは木の上で細い枝をつかんで移動する助けだったと考えられています。

形も違います。ジャイアントパンダの偽の親指は、大きく平たく、先がごつく太い形です。レッサーパンダとシモキオンのものは、小さめで平たくなく、先がくぼんでいます。

2017年には、中国科学院動物研究所の魏輔文さんのチームが、ジャイアントパンダとレッサーパンダで同じように変わった遺伝子を調べました。手足の先の発達にかかわる遺伝子、DYNC2H1とPCNTが、偽の親指の発達に関係しているとみられています。

レッサーパンダの偽の親指も器用です。スミソニアン国立動物園では、多くの動物が、暮らしを豊かにする工夫(エンリッチメント)として絵を描きます。飼育員によると、レッサーパンダは偽の親指で、タケノコや絵筆を持ちます。

赤ちゃんパンダの手は、いつ竹をつかめるようになる?

生まれたばかりの赤ちゃんには、まだ偽の親指が見えない

生まれたばかりのパンダの骨をCTで調べた研究があります。アメリカのスミソニアン国立動物園で生まれてすぐ亡くなった赤ちゃん2頭の標本です。指の骨と爪はもうできていましたが、手首の骨はまだ骨になっておらず、偽の親指も見つかりませんでした。

サンディエゴ動物園によると、子どもは約2か月で目を開けてはい始め、3〜5か月でかなり歩けるようになります。竹を食べようとし始めるのは、5〜6か月ごろです。

母親のまねをして、遊びながら覚える

台湾の台北市立動物園で生まれた赤ちゃんの例があります。生後115日のころには、歩く練習で、ピンク色の柔らかい足の裏がだんだん厚くなっていきました。生後228日(7か月半)のころには、偽の親指で竹の枝をつかんで引き寄せ、においをかいでいました。母親が竹の葉を食べる動作とよく似た様子でした。

スミソニアン国立動物園の飼育員によると、若いパンダの肉球は飼いネコやイヌに近い感じで、大人になると厚く、少しタコのようになります。

この赤ちゃんは、前足と後ろ足を使って竹の枝を回し、遊びの中でこつを覚えていったそうです。台北市立動物園の説明では、竹をすっかり食べるようになるのは1歳半ごろからです。

動物園で見られるパンダの手

採血のために、手を出してバーをにぎる

動物園では、パンダの手が健康管理にも役立っています。動物に協力してもらい、麻酔を使わずに健康診断などをするための練習を、ハズバンダリートレーニングといいます。

アドベンチャーワールドは、2008年からこの練習を取り入れました。2009年1月には、永明(エイメイ)で初めて採血に成功しています。

採血の流れは、手が主役です。パンダは採血用の檻に移り、決まった位置に座ります。手を出してバーをにぎり、バーをにぎったまま手のひらを上に向けます。肘のところで血管を浮かせて、採血します。

上野動物園では、香香(シャンシャン)が2019年2月4日からこの練習を始め、7月8日に採血に成功しました。シャンシャンはいま、中国の雅安碧峰峡基地で公開されています(2026年9月30日 CGTN Japanese/AFPBB Newsより)。

▶ 上野生まれのシャンシャン 好奇心旺盛でリンゴ好き、中国でのいま

練習のごほうびは、動物園によって違います。神戸市立王子動物園では、ふだんの餌でいちばん好きなリンゴです。アメリカのスミソニアン国立動物園のパンダは、求められると前腕を差し出して採血させ、水で薄めたはちみつや果物をもらいます。

竹を食べる時、パンダにも利き手がある?

パンダの利き手を調べた研究もあります。大阪大学の2019年度の卒業研究で、王子動物園の1頭とアドベンチャーワールドの5頭、あわせて6頭の食事を観察しました。

リンゴやニンジン、ペレットを食べる時は単純な動きでしたが、竹は両方の前足を合わせて使う複雑な動きでした。竹を食べる時、1歳の子を除く5頭には、それぞれに左右の偏りが見られました。アメリカクロクマより強い偏りです。

5頭のうち4頭は、竹の茎を食べる時に左の前足を使っていました。ただ、数が少ないので、偶然かどうかは分からないとしています。母親と子どもたちの間でも、偏りは一致しませんでした。親から学ぶのではなく、それぞれの試行錯誤で身につくと考えられています。

氷やえさ入れで遊ぶ手、逆立ちで体を支える前足

手は遊びにも使われます。2019年7月3日、上野動物園にいた力力(リーリー)、真真(シンシン)、シャンシャンの3頭が、氷をもらいました。いちばん興味を示したのはシャンシャンで、転がしたり、持って頭や胸にこすりつけたりして遊んでいたといいます。

スミソニアン国立動物園のメスのパンダは、偽の親指でパズル式のえさ入れをつかみます。あおむけになって頭の上に持ってふり、ごほうびを口に直接落とします。

前足は、体を支えることもあります。サンディエゴ動物園によると、オスのパンダはよく、前足で体を支えて逆立ちし、高い所ににおいの印をつけます。

動物園でパンダが竹を食べていたら、座って両方の前足で竹を持つ所や、にぎった手で茎を上下に動かして切る所を見てみてください。その手の中で、偽の親指が竹を受け止めています。

パンダの手は、竹を食べ、歩くための形

パンダの6本目の指は、手首の骨が伸びた偽の親指でした。自分では動かせませんが、指を曲げてにぎる竹をしっかり受け止めます。日本の研究では、小指側の骨がかかわる7本目の指が見つかり、その使われ方は研究によって見方が分かれています。

約600万〜700万年前の化石の研究からは、竹をつかむ役目と歩く役目の両方が、偽の親指の大きさを決めてきたと考えられています。

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出典

※本記事は、上野動物園・国立科学博物館・スミソニアン国立動物園などの公式の解説と、学術論文、新華社などの報道をもとに、出典を確認のうえ作成しています。

この記事の著者

パンダプラネット編集部

パンダグッズのお店「パンダプラネット」の編集部です。動物園の公式発表や日本・中国の報道を確かめて、パンダの記事をお届けしています。

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