パンダはなぜ木に登る?登り方・降り方と子パンダの木登り
動物園で、木の上で眠るパンダを見たことはありますか。丸くて重たそうな体なのに、パンダは木に登ります。
この記事では、パンダがなぜ木に登るのか、どうやって登ってどう降りるのか、落ちても平気なのかを、中国の公式の説明と研究から紹介します。子パンダが木登りを覚える時期や、上野やワシントンの動物園、野生で実際にあった出来事もあわせてお伝えします。
パンダはなぜ木に登る?
中国でパンダの保護を担う国の役所・国家林業和草原局は、子どもに木登りが要るわけをこう説明しています。パンダには決まった休み場所がありません。そのため母親は、危険を避けられるよう、小さいうちに木の登り方を教えるそうです(教え方は、あとで紹介します)。
野生では、母親が竹を食べに出ているあいだ、子は捕食者に襲われるおそれがあるので、すばやく木に登ります。
登る理由は、身を守るためだけではありません。日なたぼっこや遊びのために登ることもあります。
求愛の場になることもあります。中国の国営ラジオのニュースサイトによると、発情期のメスはよく木に登ります。木の下では2〜3頭のオスが競い合い、勝ったオスがメスと交尾できる可能性があるそうです。秦嶺山脈で約3年かけて撮影された映像には、木の枝にいるメスの下で2頭のオスがほえ合う姿が映っていました。この映像は、野生での求愛と交尾をとらえた初めての映像として紹介されています。
野生のパンダの求愛の映像(PBSの自然番組「Nature」の公式YouTube・英語)
成都大熊猫繁育研究基地は、パンダを育てて増やし、研究する中国・成都の施設です。この基地は登る理由として、木の上から様子をうかがうことや、2頭が出会ったときに弱いほうが強いほうを避けることを挙げています。林業和草原局も、木の上は空気が澄み、高い所からは下の動きが一目で分かると説明しています。
太い体でどうやって登る?研究で分かったこと
林業和草原局によると、パンダは全身の関節がとても柔らかい動物です。登るときは、前足を幹にぴったりつけて体を上へ伸ばし、後ろ足がまっすぐ立った姿勢になってから登り始めます。
幹をとらえるのは、とても鋭い爪です。爪を幹に食い込ませ、表面のでこぼこをしっかりつかんで、体のバランスを保ちます。手のしくみは、パンダの手の記事でくわしく紹介しています。
同じ局の説明には「多くのパンダは木登りがとても速く、平らな地面を歩くよりずっと速い」とあります。
「体形からすると不思議」と研究者
ただ、パンダの体は木登り向きとは言えません。アメリカのジョージア工科大学のアンドリュー・シュルツさんたちは、成都の基地と一緒に子パンダの木登りを調べました。
研究によると、パンダはクマの仲間の中で、肩の高さに比べて体重がいちばん重い体形です。これは木登りには不利です。同じくらいの体重で木の上に暮らすサルの仲間と比べると、登る速さは16分の1ほどだそうです。
シュルツさんは「体形からすると、パンダがこんなに木登りが上手なのはとても不思議」と話しています。体の形は、大きな体と頭に短く太い足を持つ、コーギーやカバに近いといいます。
らせんを描き、頭を振って登る
調べたのは、成都の基地で育った生後14〜16か月の子パンダ8頭です。パンダが登る木と同じくらいの太さの柱に登らせて、動きを記録しました。
子パンダは、柱のまわりにらせんを描くように登りました。体を縦から40度ほど傾け、1m上がるあいだに1周します。速さは毎秒0.1〜0.3m、1m登るのに3〜10秒ほどでした。
おもしろいのは頭の動きです。子パンダは登りながら、頭を左右に振っていました(2〜3秒に1回ほど)。うまく登れる子は、うまくいかない子の2倍の幅で頭を振っていたことも分かりました。前足を上へ伸ばすときのつり合いを取っているのではないか、と研究者たちは考えています。
上手さには個体差がありました。登るのに成功した割合が40%以上だったのは、8頭のうち4頭です。まったく登れない子もいました。その子たちが大きくなって登れるようになるかは、まだ分かっていません。研究の結果は、野生に帰すパンダを選ぶ手がかりにもなるそうです。
降りるときは頭が上。降りるのは苦手?
降り方にも決まった形があります。林業和草原局によると、パンダは頭を上にしたまま、後ろ向きにゆっくり下がっていきます。地面が近くなると、身軽にぴょんと飛び降ります。
上野動物園に取材した日本の記事では、パンダは木登りが得意だが、降りるのは苦手だと紹介されています。実際、木から降りられなくなったパンダを、母親や飼育員が手伝った例もあります(あとで紹介します)。ただ、なぜ降りるのが苦手に見えるのか、その理由は、研究や公式の説明でもはっきりしていません。
目のまわりの黒い毛と、木の上から地面を確かめる話は、白黒の模様の記事で紹介しています。
▶ パンダはなぜ白黒?研究が示す模様のわけと、茶色や白のパンダ
ちなみに、名前の似ているレッサーパンダは別の動物です。スミソニアン国立動物園(アメリカ・ワシントン)によると、レッサーパンダは足首がとても柔らかく、頭を下にして幹を降りられます。
木から落ちても平気なの?
林業和草原局は、パンダが木から落ちたり、足をすべらせたりする場面もたまに見られると説明しています。そのときは毛皮がクッションになり、脂肪も体を守るそうです。
成都の基地の見方は、もう少し慎重です。毛皮や、木の上の暮らしに合った骨格、丸い体で、ある程度の衝撃には耐えられます。それでも、まったく平気というわけではなく、大事な所を傷めれば危険です。
基地によると、落ちることはふつうではありませんが、起こることはあります。とくに、いたずら好きの子パンダで起こりやすいそうです。
スミソニアン国立動物園も、子パンダには落ちても耐えられる丈夫さがあるとしつつ、落ちたあとは必ずけががないか見守るそうです。ワシントンでは、実際に枝が折れて子パンダが落ちたこともありました(あとで紹介します)。
子パンダはいつ、どうやって木登りを覚える?
木登りを始める時期は、資料によって生後4か月あまりから6か月ごろまで、少しずつ違います。
林業和草原局の説明の一つでは、生後120日あまり(4か月あまり)です。転げ回ったりじゃれ合ったりしながら木に登り、竹を食べることも覚え始めるといいます。別の説明では、生後6か月になると母親について木に登り、木の上で過ごしたり眠ったりできるようになります。木登りは生きるための本能で、このころから登るのが好きになるそうです。
臥龍(四川省)の核桃坪にある基地で、母親と一緒に野生に帰る訓練をした子7頭を調べた研究もあります。中国大熊猫保護研究中心の張鈺さんたちによると、子は一般に生後5か月から木に登り、オスの1頭は6か月からでした。さきほどの柱登りの研究(成都の基地で育った子)とは、育ち方の違う子たちです。
母パンダが教える木登り
林業和草原局の説明によると、登り始めるより少し前、生後3か月目になると、母親は子を連れて巣の近くで過ごし始めます。初めのうち、子はまだ歩けないので、母親が口でくわえて運びます。子が自分で歩けるようになると、母親は最初の授業として、木登りと餌探しの練習を始めるそうです。
核桃坪の基地での野生に帰す訓練では、母親が子を連れて、野生の暮らしを教えます。基地の野外研究動物管理部の部長・何勝山(か・しょうざん)さんは、2023年の中国の新聞の取材に「以前は、飼育員が何日かけても、パンダに木登りを教えられなかった。いまは、母パンダが口で子を木の上へぐいと押し上げると、子は2回で木登りを覚える」と話しています。
訓練の子は、生後13か月までほとんど木の上
先ほどの張さんたちの研究では、登れるようになった子は木の上を好み、生後13か月まで、観察した時間の92%以上を木の上で過ごしていました。
生後16か月ごろになると、木の上にいる時間は大きく減ります。母乳に加えて、木から降りて竹を食べる必要が出てくるからです。
木の上で見つかるのは、子どものパンダが多いそうです。中国林業科学研究院の研究員・龔明昊(きょう・めいこう)さんは「子どもは体重が軽いので、木に登るのは比較的かんたん。大人のパンダは、木に登るのが比較的難しい」と話しています。
大人のパンダも、野生でも木に登る
子どもほどかんたんではなくても、大人のパンダも木に登ります。林業和草原局の説明では、まる1日、時には何日も木の上で、眠ったり座ったりして過ごすことがあるそうです。
木の上での過ごし方と、幹での逆立ち
成都の基地によると、パンダがいちばん好きな寝る姿勢は、脚を木にかけて体を支え、手で目を覆う姿です。
龔さんによると、朝に体がぬれると、急いで木に登って乾かすそうです。
木の幹は、においの印をつける場所にもなります。林業和草原局によると、パンダは逆立ちもできます。ふつうは木の幹に向かって逆立ちし、おしりのまわりの腺から出るにおいで印をつけます。
ニュースになった野生のパンダの木登り
村に現れた野生のパンダが木に登り、ニュースになったこともあります。2013年10月14日の午後、陝西省周至県の村に現れた100kgほどのパンダは、トウヒの仲間の、高さ30mもある木に登り、そのまま木の上で眠りました。
2019年10月23日の朝には、四川省宝興県の村で、家の前の大木に登ったパンダが、2時間半ほど木の上で遊び、枝を食べていました。
山の中の木登りも、カメラや職員がとらえています。臥龍の老鴉山では、赤外線カメラが野生の母子をとらえ、2020年1月16日に四川臥龍国家級自然保護区管理局が映像を公開しました。子は木の上で遊び、母親は木の下で見守っていました。
唐家河(四川省の自然保護区)では2023年9月26日、職員2人が大人の野生のパンダとばったり出会いました。公開された写真の説明によると、パンダはそのあと木に登り、頭を出して様子をうかがっていたそうです。
2025年5月21日には、大熊猫国家公園の王朗で、木の上で眠る大人の野生のパンダが撮影されています。
動物園で見られた木登り
上野動物園のトントンとシャンシャン
1986年に上野で生まれ、2000年に亡くなった童童(トントン)は、木登りが大好きなパンダでした。木から降りられなくなり、飼育スタッフに抱かれて降りることもよくあったといいます。
2017年に上野で生まれた香香(シャンシャン)について、上野動物園の副園長だった冨田恭正さんは「パンダの子どもは天敵から逃れるため、木に登る性質があります。シャンシャンもよく登ってくれましたよ」と話しています。室内展示場には木が置かれました。冨田さんによると、生の木は腐って壊れることもあるため、床に枠を取り付けて、木を簡単に取り換えられるようにしていたそうです。
上野動物園の記録によると、シャンシャンが木に登ることを覚えたのは2017年11月、生後5か月ごろのことです。初めは、室内展示場の背の低い木をよじ登るところから始めました。1歳になったばかりのころ(体重は約30kg)には、前足と後ろ足の爪で幹をがっちりつかみ、重い体を持ち上げて登っていました。
シャンシャンは、屋外に出るようになっても木登りが大好きでした。屋外の放飼場の木の上から降りてこず、職員が登って下ろしたこともあったそうです。
上野では、高い木に登って降りられなくなると飼育係が対応しづらく危ないため、シャンシャンが小さいころは、高い木の幹に鉄板が巻かれていました。こうした鉄板は、国内外のほかのパンダ舎でも見かけるそうです。
シャンシャンが3歳を過ぎた2020年10月18日、体の力がついてきたので、鉄板は外されました。シャンシャンはあっという間に登ったといいます。降りるのも上手になり、すんなり着地しました。シャンシャンのことは、シャンシャンの記事でもくわしく紹介しています。
ワシントンのバオバオとベイベイ
アメリカ・ワシントンのスミソニアン国立動物園でも、子パンダの木登りが話題になりました。
2013年に生まれた宝宝(バオバオ)は、2014年12月23日の午後、運動場の電気柵に触れて驚き、木に登りました。そのまま24時間以上降りてきませんでした。動物園は心配はいらないとして、飼育員が夜通し見守りました。バオバオは24日の夜に自分で降り、母親のもとに戻りました。
2015年に生まれた贝贝(ベイベイ)は、外の庭に出て2回目で木に登りました。降りるときは、母親の美香(メイシャン)が手伝ったそうです。動物園によると、子パンダが木に登って長く過ごすのはふつうのことです。メイシャンが落ち着いていれば、飼育員も安心できるといいます。メイシャンは、小奇迹(シャオチージー)の記事にも出てくる母パンダです。
▶ 小さな奇跡のパンダ、シャオチージーはいま?性格と中国での暮らし
ベイベイは2017年7月、乗っていた枝が折れて地面に落ちました。それでも、また木に登りました。
木登りが苦手なファーファー
一方で、木登りが苦手なパンダもいます。成都大熊猫繁育研究基地の和花(ホーファ)は、愛称の花花から、日本ではファーファーと呼ばれています。
基地の説明によると、ファーファーは体が丸く、動きがゆっくりで、基地でただ1頭、木登りが苦手なパンダです。生まれつき、右の後ろ足が外に開き気味だそうです。ファーファーのことは、ファーファーの記事で紹介しています。
まとめ:重い体で、それでも木に登るパンダ
パンダが木に登るのは、身を守るため、休むため、日なたぼっこや遊びのため。求愛の場になることもあります。
クマの仲間でも、肩の高さに比べて体重がいちばん重い体形なのに、子パンダは頭を振ってつり合いを取りながら、らせんを描いて登ります。降りるときは頭を上にして後ろ向き。降りるのが苦手に見える理由は、まだはっきりしていません。
動物園で木の上のパンダを見かけたら、どんなふうに登り、どう降りてくるのか、少し気にして見てみてください。
パンダのグッズ
パンダプラネットには、生後5か月ごろのシャンシャンの姿を本物そっくりに再現したぬいぐるみをはじめ、シャンシャンとファーファーのお座り姿のミニぬいぐるみがあります。木に登る姿のフェイホンのマスコットもあります。興味がありましたら、下のグッズもご覧ください。
本物そっくりのパンダのぬいぐるみ
木に登るパンダのマスコット
出典
※本記事は、国家林業和草原局・成都大熊猫繁育研究基地・スミソニアン国立動物園などの公式の解説と、学術論文・学会の発表要旨、新聞などの報道をもとに、出典を確認のうえ作成しています。
- 国家林業和草原局「科普 | 大熊猫的行为特征」(2024年8月26日)
- 国家林業和草原局「大熊猫的故事」(2023年6月13日)
- 国家林業和草原局「认识大熊猫(三)」(2023年6月21日)
- 国家林業和草原局「大熊猫怕不怕摔呢?」(2025年5月19日)
- 成都大熊猫繁育研究基地「【熊猫知识】行为特点」
- 川観新聞「大熊猫宝宝为何爱爬树尖尖?」
- 成都商報(紅星新聞)「“功夫熊猫”上树睡觉被拍」(2025年5月22日)
- 張鈺ほか「野化培训大熊猫幼仔第一阶段的活动变化研究」『四川動物』(2016年)
- SICB(統合比較生物学会)発表要旨「Panda Cub Climbing for Conservation」
- SICB 発表要旨「Juvenile pandas use head motion to maintain balance during climbing」
- Live Science「Some Pandas Use Their Head to Climb. Others Just … Can’t.」(2020年)
- スミソニアン国立動物園「Bei Bei Reaches New Heights」(2016年2月)
- スミソニアン国立動物園「Red panda」
- Global News「Panda cub finally comes down from tree, back with mom」(2014年12月)
- TIME「Smithsonian’s Panda Cub Climbs Down From Tree For Christmas」(2014年12月)
- Fox News「Panda tumbles from limb at National Zoo, climbs back up」(2017年)
- 中国新聞網「野生大熊猫“独闯”陕西周至老县城 爬上30米高云杉树」(2013年10月15日)
- 中国新聞網「四川宝兴现野生大熊猫爬树 悠闲玩耍两个半小时」(2019年10月23日)
- 朝日新聞出版(note)「シャンシャンも暮らした2代目パンダ舎」
- ウォーカープラス「【パンダWalker】中国への返還が迫る「シャンシャン」。思い出は?」(2023年1月30日)
- 文春オンライン(2020年)
- 東洋経済オンライン(2022年2月15日)
- 人民網日本語版「人気No.1パンダ「花花」、木登りが苦手でも「営業成績」はトップ」(2023年3月10日)
- 人民網(人民日報)「野化放归助力大熊猫种群复壮(深度观察)」(2023年10月12日)
- ハルメク「シャンシャンは登る登るよ、どこまでも」(2020年1月29日)
- 央広網「懒散笨拙?看看功夫熊猫的“真面目”!」(2021年12月19日)
- Live Science「1st-ever footage of giant pandas mating in the wild is not ‘cute and cuddly’」(2020年10月20日)
- 中国日報網「四川卧龙一对野生大熊猫母子玩耍爬树」(2020年1月17日)
- 中国新聞網「四川青川:野生大熊猫“悠闲溜达” 工作人员默默让路」(2023年9月27日)
- 東京動物園協会「これまで飼育したパンダたち」(上野動物園)






